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栄養の基礎知識

(監修) 久留米大学医学部医療安全管理部教授 田中芳明先生

栄養素の役割

私たちは日頃食事から、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの五大栄養素をバランスよく取っています。栄養素は「からだの構成成分」「エネルギー源」「からだの機能調節」の三つの大きな役割をもっています。

「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、50歳男性の1日摂取エネルギー量は約2450kcal であり、その割合は糖質57.5%、タンパク質16.5%、脂質25%となっています。1g あたりのエネルギー産生量は、糖質4kcal、タンパク質4kcal、脂質9kcal です。

糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの主な役割について

栄養はなぜ必要か

私たちは栄養を摂取することで、健康を維持しています。栄養を取れない飢餓状態では、まず肝臓や筋肉に蓄えられているグリコーゲン(ブドウ糖が結合した多糖類)をエネルギー源として利用します。しかし、その貯蔵量は少なく、わずか1日で使い切ってしまいます。

次に、体内の脂質やタンパク質を分解してエネルギー源として利用します。その結果、1週間で約2kgの筋肉が喪失すると考えられます。このように食事ができないと脂質や筋肉の分解が進み、脂肪を除いた体重が健常時の70%となると、nitrogen death(窒素死)と呼ばれる生命の危機が生じるといわれています。

栄養を摂取しない場合に窒素死に至る図解

糖質のタンパク節約作用

タンパクの分解を抑えるためには、エネルギー源として十分な糖質の投与が必要です。Gambleの報告では、1日あたり100gのブドウ糖を投与すると、筋肉などの分解によるタンパク質喪失を約1/2に抑制できます。

しかし、タンパク質喪失を抑えるためには、ブドウ糖の投与だけでは限界があり、アミノ酸の投与が必要となります。

絶食日数とタンパク質総質量のグラフ

糖質とタンパク質の関係

タンパク質は筋肉や臓器などからだの構成成分です。しかし、エネルギー源となる糖質や脂質などが不足すると、アミノ酸がエネルギーとして使われ(糖新生)、タンパク合成に利用されません。

アミノ酸やエネルギーの投与量を多くすると、タンパク合成量は増加しますが、一定量を超えるとそれ以上投与してもタンパク合成量は増加しません。すなわち、エネルギーとアミノ酸をバランス良く投与する必要があります。

投与エネルギーが一定でアミノ酸投与量が異なる場合のタンパク合成量のグラフと、投与アミノ酸量が一定でエネルギー投与量が異なる場合のタンパク合成量のグラフ

NPC/N(ノンプロテインカロリー パー エヌ)比

タンパク質を効率良く利用するために必要な、投与アミノ酸の窒素1gあたりの非タンパクエネルギー量(糖質・脂肪によるエネルギー量)をNPC/N比といい、中心静脈栄養(TPN)の処方を組む上で重要な目安になります。一般的に、タンパク合成に効率的なNPC/N比は150~200です。

糖質

糖質は、からだにとって最も大切なエネルギー源(4kcal/g)です。糖質は、単糖類、二糖類、多糖類に分類されます。

糖質の消化・吸収

糖質は、酵素により分解され、最終的に小腸上皮でブドウ糖(グルコース)や果糖(フルクトース)などの単糖に分解され、吸収されます。

デキストリンはデンプンが唾液や膵液(すいえき)などに含まれるアミラーゼにより分解されて生成します。糖質としてデキストリンを配合した経腸栄養剤では、この過程を省略でき、より速やかに吸収されます。

輸液に用いられる糖質

輸液に用いられる糖質には、ブドウ糖、果糖、キシリトール、ソルビトールと マルトースがあります。

糖質の消化・吸収に関する変化

ブドウ糖・マルトース

ブドウ糖は、各種糖質のうちで最も利用効率の高い糖質です。過剰になるとグリコーゲンを合成して肝臓や筋肉に貯蔵し、必要に応じて利用されます。細胞膜の通過にはインスリンが必要です。

血糖値とは血液中のブドウ糖の濃度であり、通常、70~100mg/dLにコントロールされています。マルトースは、ブドウ糖が2個結合した二糖類で、体内でブドウ糖に分解されます。そのため、理論的には同一浸透圧で2倍のエネルギーを投与できます。

果糖・ソルビトール・キシリトール

果糖は、果物や砂糖の成分として日常摂取している糖質で、細胞膜の通過にはインスリンを必要とせず、血糖に影響を与えません。ソルビトールは、果糖の糖アルコールで、果糖に変換されて利用されます。キシリトールは、食品中にあるD-キシロースの糖アルコールで、細胞膜の通過にはインスリンを必要としません。最近は虫歯予防の甘味剤としても注目されています。

タンパク質・アミノ酸

タンパク質・アミノ酸は、その分子の中に窒素を含んでいるのが特徴で、筋タンパク、臓器タンパク、酵素やホルモンなど、健康維持に大切なタンパク合成の素材です。タンパク質が燃焼すると4kcal/gのエネルギーとなります。

タンパク質の消化・吸収

タンパク質は、ペプシンなどの酵素によりアミノ酸やジ・トリペプチドに分解され、速やかに小腸上皮から吸収されます。アミノ酸とジ・トリペプチドは、別々の経路から吸収されることから、窒素源として両者を配合した経腸栄養剤もあります。なお、輸液ではアミノ酸が使用されます。

アミノ酸の種類

アミノ酸は、必須アミノ酸(essential amino acid)と非必須アミノ酸(nonessential amino acid)に大別されます。8種類の必須アミノ酸は体内で合成されないため、外部から補う必要があります。ヒスチジン、アルギニンも必須アミノ酸とする見解もあります。アミノ酸の投与には、必須アミノ酸と非必須アミノ酸の比率(E/N比)も大切です。

分岐鎖アミノ酸(BCAA)の役割

バリン、ロイシン、イソロイシンは分岐鎖アミノ酸(Branched Chain Amino Acid : BCAA)と呼ばれ、側鎖が枝分かれしているのが特徴です。BCAAは必須アミノ酸の約40%を占め、アミノ酸の中でも栄養学的効果が特に注目されています。

アミノ酸の需要が増大する侵襲時に、BCAAは筋タンパク分解を抑制し、タンパク合成を促進します。アミノ酸の大部分が肝臓で代謝されるのに対し、BCAAは主に筋肉で代謝され、エネルギー源となります。また、肝機能障害時などにも利用されます。BCAAの中でも、特にロイシンが筋タンパクの合成を促進し、逆にタンパクの分解を抑制します。

  • タンパク質の消化・吸収に関する変化
  • 必須アミノ酸と非必須アミノ酸の区分、BCAAの意義、ロイシンの役割について

脂質

脂質は、中性脂肪(TG : Triglyceride)、リン脂質、コレステロールから成ります。エネルギー源(9kcal/g)として、また、リン脂質は細胞膜の構成部分として重要な役割をもっています。脂質は水に溶けないため、静脈投与には大豆油を卵黄レシチンで乳化した脂肪乳剤が使われます。

静脈栄養における脂質投与の目的

脂質投与の目的は、エネルギー補給と必須脂肪酸の供給です。脂質は1gあたり9kcalと、効率の良いエネルギー源となります、またブドウ糖の過剰投与による脂肪肝なども予防できます。エネルギー源として脂質を補給する場合は、投与熱量の20%程度を、必須脂肪酸供給の目的では3~5%を投与します。

長期間にわたって脂肪を投与しないと、特徴的な皮膚症状や脱毛、成長障害などの必須脂肪酸欠乏症が起こることがあります。

脂質の消化・吸収

脂肪酸は、炭素数8~12で構成されている中鎖脂肪酸と、炭素数14以上の長鎖脂肪酸に分類されます。中鎖脂肪酸を含む中性脂肪(トリグリセリド)を中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、長鎖脂肪酸を含む中性脂肪を長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)と呼びます。

LCTとMCTは、いずれも小腸内でリパーゼの作用により、モノグリセリドと脂肪酸に分解されます。その後、長鎖脂肪酸は胆汁酸の影響を受けてミセルと呼ばれる小粒子を形成して吸収されます。一方、再度、中鎖脂肪酸はそのまま吸収されるので、吸収不良の病態時にも効率よく利用されます。

  • 脂質の消化・吸収について変化
  • MCT・LCTの違いについての表
  • エネルギー源として1g=9kcal→投与熱量の20%程度(0.5~1g/kg体重)、必須脂肪酸欠乏の予防(皮膚の硬化・肥厚・脱毛・成長障害)→投与熱量の3~5%

ビタミン

ビタミンは、生理機能を維持するために必要量は微量ですが、体内で生合成できないか、できても十分でなく、食物などから栄養素として摂取しなければなりません。水溶性ビタミン(9種類)と脂溶性ビタミン(4種類)に大別され、いずれのビタミンも欠乏症が知られています。水溶性ビタミンの多くは補酵素として働くため、糖質・タンパク質・脂質などの代謝に必須の栄養素です。ビタミンEやCはフリーラジカルの消去を担う抗酸化作用を有しています。

ビタミンの作用および欠乏症・過剰症

水溶性ビタミンの種類と作用・欠乏症・過剰症についての表
脂溶性ビタミンの種類と作用・欠乏症・過剰症についての表

微量元素

生体内含有量が鉄(Fe)よりも少ないものを微量元素と呼びます。現在報告されているものは、亜鉛、銅、セレン、クロム、モリブデン、マンガンなどの欠乏症で、特に皮膚炎・口内炎・味覚異常などの亜鉛欠乏症はよく知られています。近年、セレン欠乏症の報告もみられます。

微量元素の作用および欠乏症・過剰症

微量元素の種類と主な生理作用・欠乏症・過剰症についての表

栄養補給の選択基準

栄養療法とは、低栄養状態に陥っている患者さんの栄養状態を正常に保つことにより、疾患の治療効果を高めたり、健康維持を図ることです。栄養補給の方法は、栄養素の投与経路の違いにより「静脈栄養」と「経腸栄養」の二つに大別されます。

消化管機能があり、かつ消化管が安全に使用できる場合は、生理的な投与経路である経腸栄養が第1選択となります。一方、消化管が使用できないか、使用しない方が望ましい場合は、静脈栄養が選択されます。

経腸栄養の投与経路は、短期間(4週間未満)の栄養管理には経鼻法が、長期にわたると予想される場合は、経瘻孔(けいろうこう)法が選択されます。静脈栄養は、食事ができない期間が1週間~10日までの場合はPPNが、それ以上の長期間にわたると予想される場合はTPNが選択されます。

経腸栄養 EN(Enteral Nutritionエンテラル ニュートリション
中心静脈栄養 TPN(Total Parenteral Nutritionトータル パレンテラル ニュートリション
末梢静脈栄養 PPN(Peripheral Parenteral Nutritionペリフェラル パレンテラル ニュートリション
栄養アセスメントのフロー