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患者さんに役立つ製品を世の中へ

患者さんに貢献する製品を医療の場へ

開発部でものづくりに取り組む臨床開発リーダーと、臨床試験をサポートするモニタリング担当リーダーが、 それぞれの立場と経験から大塚製薬工場のものづくりの強みを解き明かします。

研究開発センターの開発部は、鳴門研究所で生まれた新しい医薬品や医療機器についてのアイデアを共有し、ものづくりの最終ステップとして治験と臨床研究、そして申請、承認、上市までを担当する組織です。

臨床開発チームは、研究所から引き継いだアイデアをいわば鍛え上げて、規制当局や医療機関の評価に応える製品としての価値を高め、必要な臨床試験を実施します。また、モニタリング業務に特化した専門チームが、法規制の枠組みの中で厳密に決められた手順に従って臨床試験のデータを収集し、医療機関と協力して申請用データとしてまとめていきます。研究所と開発部、そして臨床開発チームとモニタリングチーム、そうした連携を大切にするところから当社の強みが生まれています。3人の開発部リーダーが、その強みをさらに磨くために何が必要かを語り合います。

急性期領域の臨床試験に強みがあります

開発部 OPF-105臨床開発担当 リーダー 川内佳之

入社当時は研究所の安全性研究部門で生化学検査などを担当しました。その後、開発部で細胞外液補充液や電解質補正液の臨床試験を担当し、それらを製品化することができました。今は新しいTPN(中心静脈栄養)、PPN(末梢静脈栄養)製剤の臨床試験に携わっています。

こうした輸液を使うシーンでの臨床試験は、周術期の急性期領域の患者さんを対象にしたものが多くなります。入院から手術、退院までの短期間に集中して臨床データを集める必要があるわけです。もちろん、患者さんの治療と安全確保を最優先しますから、医師と綿密に協議しながら治験計画を立てていかなければなりません。細部までしっかり打ち合わせをしておかないと精度の高いデータが得られませんし、検証データがなければ医薬品として申請することができません。このような周術期の輸液製剤の臨床試験を数多く手がけてきた経験が当社開発部の強みだと私は思います。

今後は、輸液とは異なるいろいろな領域においても、製品特性に応じた多様な臨床試験を経験し、そのノウハウも吸収していきたいですね。

研究所との近さを製品づくりにつなげます

開発部 THN-01臨床開発担当 リーダー 三枝尚典

開発部から営業部に移りMRを経験した後、オーエスワンの病者用食品表示許可に向けた臨床試験のため開発部に戻ってきました。当社が初めて取り組む病者用食品の担当となり、経験のある医薬品と違い、すべてが手探りでしたが、何とか表示許可を得ることができ、良い経験をさせていただきました。5年ほど前からは、医療機器である癒着防止材の臨床開発に関わっています。医療機器の開発も当社では初めてで、しかも癒着防止材はかなり特殊なカテゴリーであるため、これも試行錯誤しながら進めています。

当社開発部の特徴を一つ挙げるとすれば、研究所との距離が非常に近いということじゃないでしょうか。開発部と研究所の距離が近いということは、医療の場ではこういうことで困っている、こういうことを望んでいるという情報が、研究の段階で得られることにつながるという点で、強みだと思います。

その一方で臨床開発の側が冷静な目で、研究所に対して「このデータがないからNO!」としっかり言えることも大切ではないかと思っています。お互いの距離が近いという強みは伸ばしつつ、対等に意見が言い合える環境を維持していくことができれば、それがさらに優れた製品づくりにつながるはずです。現在、手がけている癒着防止材も、そうした取り組みの成功例としていけたらと願っています。

いつも現場の最前線に立っています

開発部 モニタリング担当リーダー 有馬淳一郎

私たちモニタリング担当チームは、すべての開発プロジェクトに携わります。例えば周術期に使われる輸液、外皮用殺菌消毒薬、癒着防止材、いずれの場合も医療機関との最前線に立って臨床試験データを収集するのは私たちモニタリングチームです。

このモニタリングという仕事を一言で言うのはちょっとむずかしいですね。例えば輸液の場合、手術前後の診療録には膨大な診療情報があり、そこからプロトコルに合致した精度の高いデータを記録、その内容を担当医師と共有し、申請用のデータに落とし込む作業を、すべての治験実施医療機関のあらゆる治験関係者と協力して行います。また、そこで得られた情報は開発プロジェクトの責任者にフィードバックし、治験データとしてしっかりまとめてもらいます。その意味では、私たちは医療機関と会社をつなぐような役割をしているともいえます。ただし、そこにはいわゆる企業の論理のようなものは、まったく入り込む余地がありません。法規制の枠組み(レギュレーション)の中で診療情報を収集するということになりますので、厳密に決められた手順(GCP※1、SOP※2、プロトコル等)に従って活動を行い、医療機関のスタッフとしっかり協議すること、すべての情報を正確に齟齬(そご)なく相手に伝えるプレゼンテーション能力やネゴシエーション能力が、私たちモニターには必要とされます。

大規模な治験では、外部の専門組織(CRO※3)への業務委託も行います。委託といってもすべてをお任せするのではなく、薬という生命に直結するプロダクトを作っている以上、私たち自身がまずすべきことをしっかり理解し、それが確実に実行できるようCROのメンバーとも良好なチーム体制構築を進め、治験の成功に向けて努力しています。

こうした日々の臨床試験業務を通して、次を託せる人材育成も、今の私にとって重要なテーマですね。

  1. ※1 GCP:医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(Good Clinical Practice)
  2. ※2 SOP:治験を適切に実施するために実施医療機関および自ら治験を実施する者が定めることが定められている標準業務手順書(Standard Operating Procedures)
  3. ※3 CRO:医薬品開発受託機関(Contract Research Organization)

川内:研究所から開発部に異動してきた私は幸運なことに、新しい輸液製品を世に送り出す貴重な経験ができました。当然、医薬品の開発には多くの方が携わりますし、一人の考えだけではものづくりは、できないんですね。厚生労働省やPMDA※4の医薬品や医療機器等の審査などに関わる方といろいろ相談しながら進める必要がありますし、医療機関の医師や薬剤師、看護師のリクエストやアドバイスに耳を傾ける必要もあり、私たちの中でもこんなふうに製品を仕上げたいという考え方が微妙に違っていたりするでしょう、これをまとめていかなければいけません。規制当局や医療機関の多くの方と実際に会って話をすると、自分の勘違いに気づき、本当に言いたいことが何か分かったり、悩んでいる課題に対して意外なところから答えが見つかったりして、こういう対話がすごく重要なんだと感じています。いろいろ失敗もあるけれど、まずは対話をすることが成功へのきっかけになりますね。

三枝:私は川内さんのような成功体験はあまりないんですよ。開発が中止になってしまって営業部門に行くことになり、正直、当時は納得できませんでした。ただ、今となっては本当に良い経験をさせてもらったと思っています。ものの開発はできなかったけど、私という“人”の開発はできたんじゃないかと思えるくらいに、いろいろやらせてもらえて、すごく自信がついたというか。営業の現場でなければ知り得ないことも多いですし、開発部は外からこういうふうに見えていたんだということも分かりました。こうしてふたたび開発部に戻ってくることができたので、私の経験をいろいろな人に伝えたい。会社にとって、ものづくりは利益を生むために大切なことだけど、それ以前にまず人を育てないと、ものづくりは続かない。上市まで行けなかった開発テーマでも、人の育成という意味では役に立っていると思います。

有馬:開発部の業務はモニタリング業務も含め、非常に細分化されています。一つ一つの仕事に高いスペシャリティーが求められる一方、場合によってはジェネラリストにもならなければいけません。私は、データマネジメント、プロトコル作成、モニタリング業務等を経験させていただいており、それはとても恵まれた経験をしていると思っています。おかげで常に入り口と出口をしっかり意識しながら仕事を進められる思考回路が身につきました。チームリーダーとなった今、メンバーには同様に責任を持って最前線に立つという意識で仕事に臨んでほしいですし、私自身が範を示してチームをまとめ上げていかなければいけないですね。

三枝:本当、みんな真面目に仕事に取り組んでいますね。

川内:でも世間では開発の仕事って、すごく華のあるイメージはありませんか。実際は地道にコツコツ。治験は製品開発の最終ステージで、投資も大きく、失敗が許されない重圧のある中、膨大な資料を何時間もかけて、データに間違いがないかチェックするとか、そういう地道な作業を積み重ねています。手がけた製品を患者さんに届けるという目標を多くの仲間と共有して、達成感を味わいながら、苦しくも楽しい仕事ができることはやりがいを感じます。

三枝:花形だと思われているかもしれないけど、水面下では水かきをどれだけ忙しく動かしているか想像してみてほしいですね。

有馬:開発部の業務には華はいらないですよ。臨床試験は、患者さんの貴重な臨床データを収集させていただくので、しっかりGCP等の法規制をちゃんと守って、高い倫理観を持ってやっていくことが重要ですね。

  1. ※4 PMDA:独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)

(所属部署、役職名は取材当時のものです)