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2022年6月17日

訪問看護事業所における食事・栄養ケアの実態を調査、客観的な「評価指標(栄養アセスメントツール)」を使用して低栄養を判断している割合はわずか約8.2%

株式会社大塚製薬工場(本社:徳島県鳴門市、代表取締役社長:小笠原信一)は、在宅療養者の食事・栄養ケアに携わる医療従事者の監修のもと、全国訪問看護事業協会の正会員である訪問看護事業所を対象に、「在宅療養高齢者における食事・栄養ケアの実施状況に関する調査」を行いました。

その結果、在宅療養者の看護課題として「低栄養」を設定する際の判断材料について、「体重の推移」「身体症状」「食事摂取量」を約9割の方が挙げる中、介護現場の負担が大きい体重測定の実施割合は事業所によって大きく異なる状況であり、「低栄養」を設定する際の判断材料が不足している可能性があることが分かりました。また、客観的な「評価指標(栄養アセスメントツール)」を判断材料としている事業所はわずか約8.2%であり、低栄養の評価方法にバラつきがあることが推察されます。

また、「低栄養の利用者(終末期を除く)に介入しない(できない)理由」として、「本人・家族の希望」「経口摂取が困難」を挙げる事業所が多い一方、「効果的な介入方法が分からない」が16.6%、「連携先の専門職が不足している」が12.1%であるなど、栄養課題の重要性は認識されているものの連携不足等で具体的な解決方法を見いだせていない事業所が一定数あることが分かりました。さらに「食事・栄養情報の連携協働に利用している媒体」については「FAX」「電話」「郵送」を挙げる事業所が多く、「ICT共有ツール」を挙げた事業所は16.6%であるなど、課題を関係者で共有し可視化するICTツールの利用はまだまだ普及していない現状が分かりました。

65歳以上の在宅療養患者993名を対象としたMNA-SF(簡易栄養状態評価表)による栄養評価調査※1では、「低栄養」は約36%、「低栄養のおそれ」は約34%であり、合わせて約7割の方に何らかの栄養の問題があることが報告されています。また在宅療養高齢者は肺炎と骨折を要因とした緊急入院が多く※2、「低栄養」「サルコペニア※3」「フレイル※4」という3つの共通するバックグラウンドが直接的・間接的に関与していると指摘※5されており、栄養の課題を解決することは緊急入院を防ぐアプローチとして重要です。

大塚製薬工場は、"The Best Partner in Clinical Nutrition"(臨床栄養領域における患者さんや医療従事者のベストパートナーを目指す)という経営ビジョンのもと、今後も適正な栄養管理に役立つ情報や製品を継続的に提供することで、臨床栄養の領域におけるベストパートナーを目指してまいります。

大塚グループは、"Otsuka-people creating new products for better health worldwide"の企業理念のもと、世界の人々の健康に寄与してまいります。

※1 平成24年度老人保健健康増進等事業 在宅療養患者の摂食状況・栄養状態の把握に関する調査研究報告書 http://www.ncgg.go.jp/ncgg-kenkyu/documents/roken/rojinhokoku4_24.pdf  (2022年6月現在)
※2 佐々木 淳,他:Medical Alliance,2015;Vol.1 No.1:p71-77
※3 加齢により骨格筋量が低下した状態
※4 加齢に伴う予備能力低下のために、ストレスに対する回復力が低下した状態
※5 吉田 貞夫:静脈経腸栄養,2013;Vol.28 No.5:p1051-1056

調査概要

調査名 : 在宅療養高齢者における食事・栄養ケア実施状況に関するアンケート

調査期間 : 2022年2月7日~2月28日

調査対象 : 全国訪問看護事業協会の正会員のうち回答を得た379事業所

調査方法 : インターネット調査 

結果概要

※各数値は小数点第2位で四捨五入しています。

低栄養の判断には、「体重の推移」「身体症状」「食事摂取量」を約9割が利用、「評価指標(栄養アセスメントツール)」の利用は約8.2%

【看護課題(計画書等に記載)として"低栄養"を設定する際の判断材料を教えてください】

低栄養の判断には・・・.png

  • 「体重の推移」「身体症状」「食事摂取量」を使っている事業所は約9割でした。
  • 「口腔機能」「必要栄養量と摂取栄養量の乖離」「評価指標(栄養アセスメントツール)」を使っている事業所は5割以下でした。

低栄養への介入方法が分からない、連携先の専門職が不足している事業所は一定数存在

【低栄養の利用者(終末期を除く)に介入しない(できない)理由を教えてください】

低栄養の介入方法・・・.png

  • 「本人・家族の希望」「経口摂取が困難」を挙げる事業所が多い一方、「効果的な介入方法が分からない」が16.6%、「連携先の専門職が不足している」が12.1%であるなど、具体的な解決方法を見いだせていない事業所が一定数あることが分かりました。

ICTツールを用いた情報の連携・協働を行っている事業所は2割以下

【「食事・栄養情報」の連携・協働に利用している媒体について教えてください】

ICTツールの・・・.png

  • 「FAX」が最も多く69.1%、次いで「電話」が51.2%、「郵送」が49.9%でした。
  • 「ICT共有ツール」を挙げた事業所は16.6%であるなど、課題を関係者で共有し可視化するICTツールの利用はまだまだ普及していない現状が分かりました。

全利用者の7割以上に体重測定を実施している事業所は36.9%

【貴事業所の利用者のうち、どれくらいの方に体重モニタリングをされていますか(自宅での測定の他、他サービス等からの入手も含む)】

全利用者の7割以上に・・・.png

  • 全利用者の7割以上に体重測定を実施している事業所は36.9%でした。
  • 全利用者に体重測定を実施している事業所がある一方、全く実施していないという事業所もあり、事業所によって実施割合は大きく異なる状況でした。

<参考>その他の主な結果を抜粋してご紹介します。

【貴事業所の利用者全体で、"低栄養"の方の割合を教えてください】

低栄養の該当割合.png

  • 全利用者のうち"低栄養"と考えられる在宅療養者が3割以下と回答した事業所は60.4%でした。

【「体重測定の実施割合」と「低栄養の該当割合」のクロス集計】

体重測定の実施率と・・・.png

  • "体重測定"の実施割合(7割以上、7割未満)と"低栄養"の該当割合についてクロス集計を行ったところ、"体重測定"を実施している事業所は"低栄養"に該当する利用者が多いという結果でした。

調査結果の詳細につきましては、以下をご参照ください。

結果報告書はこちら(PDF)

監修者のコメント

(五十音順)

宇都宮 宏子 先生(在宅ケア移行支援研究所 宇都宮宏子オフィス 代表)

訪問看護師は療養者の全身状態を見ているので様々な問題に気が付きますが、解決策が見えないと看護課題に挙げにくいというのは、現場としてあると思います。食事・栄養ケアに苦手意識をもっている方もいるかもしれません。気づきのポイントや解決策の対応について、成功事例を含めてプロセスとして確認できる方法があれば訪問看護師は分かりやすいと思います。デイサービスと連携することで食事の場面を確認しやすくなり、得られた情報をケアマネジャーに伝えることも重要ですね。

川口 美喜子 先生(大妻女子大学 家政学部 教授)

本アンケートでは、「栄養に関する意識が低い」「栄養問題に気づかない」「問題の提起はできたが、具体的なケアがわからない」といった悩みがあることがわかりました。医師や看護師がPOS(Problem Oriented System)による考え方を実践しているように、管理栄養士は栄養ケアプロセスを学んでおり、栄養診断することができます。栄養摂取量の把握や消化吸収能力、基礎疾患や行動、環境等から、なぜこの患者さんは食べられないのかを見て考えることができます。看護師さんの困りごとに管理栄養士は応えることができるということを伝えていければと思います。

佐々木 先生(医療法人社団悠翔会 理事長・診療部長)

在宅では、低栄養が問題として挙がってこないという課題があります。今回の結果では、低栄養に対して一定の予備的な知識やツールを使うスキルがある事業所では、低栄養の患者を抽出できている確率が高いという傾向は読み取れると思います。訪問看護師の方は丁寧に看護計画を立てられているので、体重などの変化も当たり前のデータとして見ていくことが大事だと思います。

高砂 裕子 先生(南区医師会訪問看護ステーション 管理者)

最近は、在宅療養をしている方が独居だったり、介護者が認知症や老老介護など、支える人がいないなど介護負担が大きいため、栄養ケアまでに手が回らないという場面を経験することがあります。退院後、入院中に提供されていたケアの内容を継続し、在宅療養を訪問看護師は支えています。その内容が、アンケート結果から読み取れると思います。在宅でも栄養士の協力は重要ですが、在宅で活躍なさる栄養士は、まだ少ないので増加し、連携を実現できることを期待しています。


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