トップ > 患者さん・一般の皆さま > 輸液と栄養 > 水・電解質輸液
水・電解質輸液
(監修) 日本医科大学腎臓内科名誉教授 飯野靖彦先生
水・電解質補給に用いられる輸液は、電解質濃度が血漿(けっしょう)とほぼ等しい「等張電解質輸液」と、血漿よりも低い「低張電解質輸液」の2種類に大別されます。
等張電解質輸液は、電解質の浸透圧が体液とほぼ同じであるので、投与した輸液は細胞内へは移動せず、細胞外に分布して細胞外液量を増します。そのため「細胞外液補充液」とも呼ばれ、血管内や組織間に水分・電解質を補給できる輸液です。生理食塩液、リンゲル液、乳酸(酢酸・重炭酸)リンゲル液などがあります。乳酸(酢酸)リンゲル液には、糖質を配合した製剤もあります。
低張電解質輸液は、体液より電解質濃度が低い輸液です。ブドウ糖を配合して浸透圧を等張にしていますが、ブドウ糖は代謝されると水になるので、結果的には体液より浸透圧の低い液を投与したことになります。このため、低張電解質輸液は細胞内液を含むからだ全体に水分を補給することができます。低張電解質輸液には、1~4号液のような維持液類があります。
3号液は、尿や不感蒸せつなどから毎日失われる水分と電解質を補給する輸液です。水分や電解質は、からだの中に余分な量を蓄えることができないため、毎日補給する必要があります。
3号液を1日に必要な水分量である約2000mL投与すると、主要電解質(Na+、Cl-、K+)の1日必要量が補給できます。
健康な人は、1日の水分摂取量と排せつ量のバランスがとれています。したがって、食事がとれない場合は何らかの方法で1日2000mL前後の水分を輸液で補給する必要があります。
健康の維持に必要な体液量が不足している状態を「脱水」と呼びます。脱水は種々の要因で起こりますが、水分とナトリウムのどちらが多く失われたかによって、水分欠乏型脱水(高張性脱水)とNa欠乏型脱水(等張性脱水、低張性脱水)に大別されます。臨床的には水分とナトリウムの両方が欠乏した混合性脱水がよくみられます。
水分欠乏型脱水では、血漿浸透圧の上昇による口の渇きや尿量の減少などを呈します。高度の欠乏時には精神、意識状態は興奮状態から昏睡(こんすい)に至ります。Na欠乏型脱水では、循環血液量の減少による血圧低下のため頭痛やめまい、吐き気、立ちくらみなどの循環器症状がみられます。
注:脱水の直訳の英語はdehydrationですが、米国ではdehydration(脱水:水分欠乏)とvolume depletion(体液減少:Na欠乏)を区別して使用しています。
病気で食事ができない状態が続いたり、真夏の炎天下で長時間作業をして汗を多くかいた時などは、細胞外液のみならず、細胞内液を含むからだ全体から水分が失われます。このような時は、細胞内まで水分を補給できる3号液などの維持液類や5%ブドウ糖液などが投与されます。
Na欠乏型脱水では、細胞外液のナトリウムなどの電解質が失われ、細胞外の浸透圧が低下し、細胞外液の水分が浸透圧の高い細胞内へ流れていきます。この場合には、細胞外液に電解質を補うために、生理食塩液や乳酸(酢酸・重炭酸)リンゲル液などの細胞外液補充液(等張電解質輸液)が投与されます。
ケガや手術による出血や嘔吐・下痢などで体液が急になくなる時など、臨床的には水分とナトリウムの両方が欠乏した混合性脱水がよくみられます。
血漿増量剤は分子量が万単位の高分子物質を含む輸液剤であり、代用血漿剤とも呼ばれます。点滴投与後は、アルブミンなどの血漿タンパクと同様に血管内のみに分布し、血管内の水分を保持します。
急性出血など、乳酸(酢酸・重炭酸)リンゲル液のみでは循環血液量が十分に回復しない場合や、心臓手術時などの体外循環灌流(かんりゅう)液として用いられます。
血漿増量剤には低分子デキストラン製剤やHES(ヒドロキシエチルデンプン)製剤があります。
注:基準値は医療機関で異なります。