提供:株式会社大塚製薬工場
取材:メディバンクス株式会社
在宅ケアでの多職種連携は、患者さんや利用者さんの健康状態や生活の質向上に大きく関わります。なかでも褥瘡ケアでは、看護師や管理栄養士など多職種の連携によるケアが提供できなければ、成果が出にくいケースが少なくありません。
今回は訪問看護ステーションにおける多職種連携での栄養ケアの事例と、そこで使用された食・栄養支援ツール「ぽけにゅー」についてご紹介します。
MEMBER
株式会社ナラティヴ
なないろ在宅ケアステーション
在宅看護専門看護師
小泉 未央 さん
医療法人アスムス
認定栄養ケア・ステーションぱくぱく
在宅訪問管理栄養士
潮田 直子 さん
医療法人アスムス
わくわく訪問看護ステーションおやま
管理者・訪問看護師
小薗江 一代 さん
医療法人アスムス
認定栄養ケア・ステーションぱくぱく
在宅訪問管理栄養士
岩本 佳代子 さん
事例1
「ぽけにゅー」を活用した訪問看護ステーションと
認定栄養ケア・ステーション間の連携による褥瘡の改善
慢性疾患や障がいがある利用者さんへの栄養ケアの開始
認定栄養ケア・ステーションとの連携のきっかけを教えてください。
まずはヘルパーさんと共にAさんの食事の様子を見させていただきました。当初、ご本人はケアに対して拒否感が強くありましたが、朝のテレビドラマの話をしたり、今まで食べてきたもののなかで美味しかったものを聞いたりと、ヘルパーさんも交えて3人で会話をすることで、少しずつ拒否感を除いていきました。
管理栄養士、ヘルパー、訪問看護師の多職種連携で褥瘡を改善!
褥瘡の改善に栄養ケアが繋がった事例はどのようなものだったのですか?
気温の高い時期にAさんが脱水で寝込んでしまったのですが、その際にたった一晩で、踵に黒色壊死を伴う褥瘡ができてしまったのです。そのため軟膏処置を行いつつ、定期巡回で入っているヘルパーさんに、「もっとカロリーを上げて、たんぱく質を摂っていただけるようにしてください」とお願いしたのです。しかしヘルパーさんから、「何を準備したらよいのか分からない」と言われてしまいました。また私たち看護師も、具体的に食材や市販品にどれだけの栄養があり、どのようなものが栄養ケアに効果的なのかが分かりませんでした。そこで潮田さんやヘルパーさんが連携してくださり食支援を充実させることで、約5ヶ月後には踵の褥瘡が治癒したのです。
褥瘡の改善に栄養ケアが繋がった事例はどのようなものだったのですか?
褥瘡が発生した当時、Aさんは嚥下機能が低下し普段の食事ではおかずが食べられずにお粥が中心になりかけていました。一方でヘルパーさんは新しい料理覚えることに苦労するという課題がありました。そこで、Aさんは乳製品がお好きだったことから、ご本人にとって味に違和感がなく、ヘルパーさんも簡単に調理に加えることができ、手軽で日持ちもするたんぱく質豊富な食材として、栄養機能食品の粉末を飲んでいただくことを提案しました。また、Aさんの食事のお好みを探りながら、お麩を使った料理や麺類を取り入れたり、サラダにマヨネーズをかけたり料理にごま油をたらすなど、「ちょい足し」で栄養を加える様に指導しました(図1)。
食支援・栄養ケアへの意識づけと気づきに繋がるツール
多職種連携のなかで、「ぽけにゅー」はどのように役立ちましたか?
Aさんの原疾患は重症筋無力症ですので、今後、症状が進んだ場合、意思決定支援が必要になります。そうなった時に、「ぽけにゅー」に記録されたAさんの食事に関するデータや、食に関するご本人の価値観の記録が生きてくると考えました。また、これまでは訪問看護記録や電子カルテのなかで栄養の項目を追うなど、栄養に特化した見方ができるツールがありませんでした。しかし「ぽけにゅー」というツールによりAさんの栄養状態を経時的に追う事ができますので、食支援に対する意識づけや気づきに、とても有効なツールになっています。スタッフは日々の業務に追われている中でも、新しいツールの必要性と便利さを理解し、食支援について課題を焦点化し、スタッフ全体が共通認識を持って看護実践を行うことが出来ています。そういう意味で、スタッフに対する食支援や栄養に関する意識づけや教育に活用できるツールにもなっています。
「ぽけにゅー」には、栄養に関する基本的なスクリーニングやアセスメントの機能が備えられており、それらの経時的な変化を過去にまでさかのぼって見られることが素晴らしいですね。今回の事例でも、私たち管理栄養士が介入する以前から、訪問看護師の皆さんが情報を「ぽけにゅー」に入れてくださっていたおかげで、利用者さんの過去の状態を参考にしながら、管理栄養士として気になる点をピンポイントで聞き出すことができました。これによりスムーズに介入できたことが、とても効果的だったと思います(図2)。
事例2
医療法人内における「ぽけにゅー」を活用した
訪問看護ステーションと認定栄養ケア・ステーションの連携
栄養に関するデータや評価を「見える化」し、共有するツール
法人として「ぽけにゅー」を導入し、多職種で情報を共有してどのように感じましたか?
看護を長くやってきて、食支援の大切さは実感としてありましたが、 そのために看護師以外の職種の皆さんが何を行い、どのような視点で支援に関わっているのかについて、分からない部分が多くありました。そのような部分を「ぽけにゅー」が繋げてくれているように思います。
多職種が全員現場で顔を合わせ、利用者さんをみれば一番連携がしやすいのですが、なかなかそうはいきません。そこで、「ぽけにゅー」というひとつのツールを共有することで、数値や客観的な評価が見える化でき、専門職以外でも、食支援や栄養に関する理解が進んだんだと思います。
食支援に関する問題を探し出して解消し、ケアの質を向上させる
「ぽけにゅー」の活用で、ケアはどのように変わりましたか。
同じ患者さんの栄養に関するデータを見ても、私たちは看護の視点で見て「たんぱく質が少ないから、栄養製品を飲んでください」となりがちです。しかし管理栄養士さんはさら踏み込んで、「こんな惣菜を買って」とか、「ご自分で調理をするなら、こんな食材を利用してください」となります。こうした看護師と管理栄養士との視点や考え方の違い、栄養や食支援に対する多職種間の溝を、「ぽけにゅー」が埋めてくれています。その結果、栄養製品を提供する以外にも選択肢があることや、介護のなかで買い物の時間がどれくらいとれるのかなど、食事や栄養の課題を通じて、それまではぼんやりとしか見えていなかった患者さんや利用者さんとご家族の、生活全体を明確に見られるようになりました。 また、その人が食べられない理由や本人の価値観など、食支援や栄養に関する多様な項目がありますし、脱水についても生活環境を含めてその理由を検討することができます。これらの細かいアセスメントは、看護計画にとても活かされています(図3)。
高齢の患者さんや利用者さんは、糖尿病や腎臓病など慢性疾患を抱えていることが多く、それぞれの疾病に対する栄養指導を個別に受けてもなかなか実際の食生活に反映することができません。また、それが「食べる楽しみ」を阻害し、結果として低栄養になってしまうこともあります。その他にも低栄養の要因は数多くあるのですが、それらを探し出して問題を解消していく際に、患者さんや利用者さんに関わる多職種が共有できる「ぽけにゅー」は、非常に役立っていると思います。
在宅ケアのための食支援
医療法人アスムス
理事長 太田秀樹先生
食べることは人間の尊厳にかかわる営みであり、単に生命を維持するために行う栄養摂取ではなく、文化的に深い意義があります。特に人生の最終段階である人を対象とすることが多い在宅医療・ケアにおいては、最後まで安全に食を楽しむことができるよう多職種での「食支援」が重要であり、これを共通言語にする必要があります(図4)。
食支援とは、多職種が協働して患者・利用者の自己決定を支援し、楽しく、美味しく、笑顔で食べることをサポートすることです。そのためには多職種が同じ方向を目指し、目標を共有する必要があります。「ぽけにゅー」というツールが、こうした食支援に大きな力を発揮することを期待します。
利用者のAさんは重症筋無力症の既往があり、がんの治療で胃全摘術を受けていました。脳血管疾患の既往から片麻痺もあり、要介護2で生活支援が必要でした。一人暮らしに近い状態であり、進行性の病気により嚥下機能が低下していくことが予想され、今後の食支援をどのようにするべきかという問題があり、「認定栄養ケア・ステーション」へ連携をお願いしました。